焦点:無観客五輪、負のレガシー懸念も 経済効果12兆円に消失危機

[東京 14日 ロイター] – 2030年までに12兆円と都が見込んだ東京五輪・パラリンピックの需要押し上げ効果(レガシー効果)は、新型コロナウイルス禍と五輪の大幅な規模縮小で前提が崩れた。

エコノミストの間では、最も期待された訪日外国人の増加による需要創出は想定の1─2割にとどまり、感染再拡大などで大会運営に影響が出るなどすれば、レガシー効果はむしろマイナスになるとの見方も出ている。

<日本の国際的評価に影響>

「外国人観戦客を受け入れないことが決まった時点で、経済効果への期待が薄れた。相当なダメージを受けるのは間違いない」。みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部の山本康雄・経済調査チーム次長は無観客開催に伴う経済効果について、東京都の想定を下回る可能性があると指摘する。

都は2017年4月に公表した経済波及効果に関する報告書で、観光需要の拡大を柱とする需要創出で12兆2397億円のレガシー効果を見込んだ。このうち、選手村の後利用や交通インフラの整備などを想定した「まちづくり」で2兆2572億円、五輪開催に伴うスポーツ観戦者やボランティアの増加では8159億円と試算した。

東京大会を巡る状況は、新型コロナの世界的な大流行でその後に暗転。開催が21年7月へと1年延期された後も感染は収束せず、今年3月に外国人観客を入れないことが、開幕15日前の7月8日にほぼ無観客にすることが決まった。

都の試算のうち、下押しが懸念されるのは観光需要の拡大や国際ビジネス拠点の形成を柱とする需要増加額9兆1666億円だ。無観客開催となったことで「コロナ後の観光振興にブレーキをかける形となる」と、みずほリサーチ&テクノロジーズの山本氏は指摘する。

観光需要と国際ビジネス拠点の形成は、海外からの観客や大会関係者が訪日することに伴う先行きの需要創出を狙った中期的試算だが、大和総研経済調査部の神田慶司シニアエコノミストは「試算の1、2割程度に低減する可能性がある」とみる。まちづくりやスポーツ観戦者の需要3兆円の効果を加味しても、レガシー効果は5兆円程度にとどまる計算だ。

五輪期間中やその後の感染再拡大を回避できなければ、レガシーを残すどころかマイナスに作用するとの懸念もくすぶる。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、五輪期間中に感染が急拡大し、安心・安全な大会の開催ができなければワクチン接種の遅れとともに「国際的な評価の低下がマイナスのレガシー効果になる可能性がある」と言う。

「大変な状況での開催に対する責任が問われることになれば、政権の退陣のきっかけになりうる」と木内氏は指摘する。

<宙に浮く再試算>

都は、ロイターの取材に対し、当初想定した経済効果について再計算の基礎となるデータがそろっておらず、「試算し直すかどうかは現時点で未定」(都庁関係者)としている。

政府は、2015年に1973万人だった訪日外国人旅行者数を20年に4000万人に倍増させ、さらに2030年に6000万人に増やす目標を掲げている。日本政府観光局(JNTO)のデータによると、外国人旅行者は19年に3188万人まで拡大し、目標の4000万人を視野に入れた。ただ、コロナの直撃で20年は前年比87.1%減の411万人に急減している。

観光庁の関係者は「日本は自然、文化、気候、食という観光振興に必要な4要件を持っており、その観光資源の魅力が失われたわけではない」と言う。目標実現に向けて「官民一体となってしっかり施策を進める」との姿勢も崩していない。

海外からの観客受け入れが見送られたことに伴うインバウンド消失について「この分野のレガシー効果はなくなるが、インバウンド政策は成長戦略としては残るため、別のプランで補強しなければならないだろう」と、第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストは指摘する。

レガシー効果を巡って熊野氏は「今の状態では負の効果になりかねず、どう立て直していくのかを合理的に、建設的に考える必要がある」としている。